舞台『母に欲す』

舞台公演が終わりましたので、ネタばれ含む独り言です。

相変わらず文章力ない読み取る能力もない、ミーハーだけが一人前の拙い感想ですが、忘れっぽい自分の為に書き残しておく。

雑誌のインタビューやパンフ等はまだ未読ですので(これ書き終わったら全部読む!)間違った解釈も多々あるかもしれませんが、そこんところは軽くスルーでお願いします。




舞台 パルコ・プロデュース『母に欲す』

PARCO劇場
2014/07/10〜2014/07/29

森ノ宮ピロティホール
2014/08/02〜2014/08/03

作・演出/三浦大輔

音楽/大友良英

出演/峯田和伸銀杏BOYZ池松壮亮/土村芳 米村亮太朗 古澤裕介/片岡礼子 田口トモロヲ


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まずは『母に欲す』全25回公演無事終了おめでとうございます!

ぶっちゃけ今回(も)12回通ったキモヲタですが、どの回もそれぞれ空気感や印象が違ってて、つくづく舞台は生モノだなぁ…と実感。


ここを読んでくださる方は舞台観劇した方が殆どだと思うのですが、以下ざっくりしたあらすじなど。


《STORY》
田舎から上京して暮らしているけど、仕事も上手くいかず、常にお金に困っていて、性欲だけは旺盛なだらしのない生活を送っている菅原裕一(兄)。
仕事や支払いの催促から目を背けている間に実家に居る弟の隆司から連絡が入る。
留守電が何度も入ってるにもかかわらず、色々と説教されるのが目に見えてるので全く取り合わない兄。
そんな留守電ラッシュの合間に地元の友人から緊急を要すメッセージが入り、遅ればせながら友人に連絡を取った兄はそこで、つい先日も金を振り込んでくれた母の訃報を知る。

慌てて地元に帰るも既に葬式も出棺も済んでしまって、いつもそこにあった筈の母の姿は動かない遺影と骨壺だけになっていた。

好きなことをする為に上京しておきながら、いい歳をして母親に金を無心し、そのくせ母の一大事には音信不通だった兄を、弟は当然責める。
そして兄は、自分のしでかした事の重大さと、永遠に母を失った哀しみをようやく実感し、これから自分は母の為に何が出来るのだろう…と母の死に向き合う。

…ここまでが1幕。


2幕では、母を失って男所帯になった筈の菅原家の台所で女性が夕飯の支度をするシーンから始まる。

母の四十九日が過ぎてすぐに父が連れて来た女性に兄弟は戸惑い、特に母の居場所が無くなると怖れた弟は猛烈に反発する。
兄はそんな弟に引きずられるものの、その女性の存在にかえって亡き母の姿を思い出さずにはいられない。

兄弟に無茶苦茶言われても、父にきつく叱責されても、けなげに自分たち家族に尽くす女性を見ているうちに、いつしか兄弟も新しい母親の存在を受け入れ始めるが、父の部下が会社に父のゴシップをリークしてしまった事で、体裁を気にした父が再婚を断念し、新しい形で構築されつつあった菅原家の生活は、また2ヶ月前の母が亡くなった状況に戻ってしまう。

喪失感を抱えながら、それぞれの生活を歩み始める菅原家の人々。

そして、東京に戻った兄は、母が亡くなる前日に留守電に遺した最期の言葉を耳にする。

…これが2幕。




以下、感想。

見る人によって、こんなにも捉え方が変わる話ってそうそう無いんじゃないでしょうか。
性別、自分の立場(親とか子供とか)、身内を亡くしたことのあるなしによっても。
それぞれの立場から、自分にも身に覚えのある出来事や台詞にグサグサ心を刺されて、気付けばどっぷり感情移入してしまってる。

そんな中でも、この舞台の中心である峯田さん演じるお兄ちゃんが本当にスゴかった。
最初見た時は、ほんっとダメんずでどーしようもないなって思ってたんだけど、だんだん庇護欲を掻き立てられてく役でね、何もできないのに何故か周りから愛されてるのが納得できる不思議ちゃんでした。
あまり多くを語らないタイプなんだけど、その分めいっぱい感情のアンテナが張ってるひとで、だからイヤな事には目を潰って逃避しちゃう、みたいな子供みたいなひとで。

全身全霊でこの舞台に体当たりしてるのが客席にもビシバシ伝わってて、公演当初はむっちりしてた腰周りのお尻の肉が目に見えて落ち、テーピングしてた足の甲は靴下でカバー、公演を重ねるごとに痣やテーピング、サポーターが増えていく…とまさに満身創痍で見てるこっちがハラハラ。
大阪の公演ではカテコでふらついたり、支えなしでは立ってられないくらいの消耗っぷりだったのに、演技中は全力で頭ぶつける椅子から転げ落ちるセットから落ちそうなくらい飛込んでくる(そして池松くんに引っ張り戻される/笑)。
涙も涎も大放出で、出し惜しみなく全裸を曝す、こんな全力男子、好きにならん訳がない(笑)。

話が進むにつれて、周りとの蟠りが無くなってくると、電話も出るようになって言動の速度も常人並みになってきて、何故か子供の成長を見守る親のような心境になってしまう兄ちゃん…首まわりがヨレッヨレのTシャツ姿さえ可愛らしくて仕方ないよ!

そして兄ちゃんの見せ場でもあり、毎回楽しみにしてたのが1幕ラストの母への歌なのですが、やはり本業のミュージシャンさんだから、その時のノリや感情なんかで弾き方や歌い方が違うみたいで、どの回も震えがくるくらい心を揺さぶられるんだけど、特に大千秋楽での歌は、これでもかー!てくらい魂の叫びみたいな歌い方だったのに対して、ギターの音がものすごく優しく丁寧に弾いてらしてて、そのギャップがね、なんかすごく印象に残りました。


もうひとりの主役である弟演じる池松くん。
彼にも散々、撃ち抜かれました。

もう最初の喪服姿が格好良すぎてホゲー!ってなった(笑)。
田舎で両親と同居しながら地道に働く普通の青年で、彼女にも優しいんだけど感情が高まると辛辣なことも口にするこの役が単なる怒りっぽいコにならなかったのは、池松くんの雰囲気と、荒っぽい口調に見えても温かみを感じさせるあの訛りの為せる技でしょう。

あの弟がキレるのだって、亡き母や兄ちゃんやニューかあちゃんにかかわること…と考えれば、ただのマザコンでブラコンな優しい男の子だ。

肝心なときに駆け付けてくれなかった兄を、それでも赦して認めて頼りにしてたのは、地元で堅実に生きることしか出来ない自分に比べて、自らを表現する才能を持ち、好きなことをするために上京した兄に憧れて尊敬していたからだと思う。

でも一方で、亡くなった母の自分と兄への接し方の違いにジェラってたりもしたのかな。
『お金貸して〜』って母に頼られる自分をちょっと誇らしく思ってたのに、それが兄の為だった…とか思うとやっぱり複雑だよね。
一方、兄だって自分は親に何も出来ないだらしない兄貴なのに、弟はしっかり親の面倒を見ていて。

憧れあり嫉妬あり、だけどやっぱり血をわけた、ふたりだけの兄弟。

だから余計に兄弟が歩み寄ってからのやり取りが可愛くて仕方ない。
お父さんの愚痴を言いあって、ニューかぁちゃんのごはんにケチ付けようって提案してる辺りなんか、ほんと可愛くて微笑ましいよなぁ。
ごはん作る立場だったら『黙って食えや!嫌なら食うな!』って思うけどね(笑)!

そいや、初見の後で池松くん関連のサイト管理人4人でお茶してて、『初めて見たのになんかデジャヴュ…』って話になって、なんでだー?と思ったら、上手の上段で彼女とイチャコラしてるのとアメトークがぬる毒を彷彿とさせたんだった(どうでもイイ話)。

彼女にライターを投げ付けるとこはちょっとビビったけど、彼女とのラブラブちゅっちゅしてる場面はほんと可愛い。
彼女にハーパンを剥かれるシーンは、初日に行った友達が言うにはちょっと下ろされるくらいだったというから、回を重ねる事に膝下まで下ろされるようになってったのは、惜しみなく全裸を曝した峯田さんへの負けん気なんじゃないかという気がしてならない。
客席で見てるコチラは大喜びして拝見してましたけど。

弟くん、ほんと可愛くて格好よくて面白くて、名シーンがいっぱいあるんだけど、語ろうとするといくら時間があっても足りないので他の方たちの話が出来ないからこの辺で止めておこう。

田口さん演じるお父さんは、典型的な日本の父だった。
世間体を気にしてて、家では立派な父として振る舞ってて、妻には威圧的な態度を見せるけど子供に相手にされないところがなんだか切ない。
登場シーンなんてめっちゃ素敵でときめいたんだけど、ニューかあちゃん智子さんに対して赤ちゃん言葉で甘える姿のギャップがまた愛らしすぎて、2階に居る次男のコーラ一気からナイスげっぷを見たいのに可愛いお父さんも見たくて、どっちを見たら良いのー!ってジタバタしながら見てた。
あの舞台では見れてなかったけど、亡くなったお母さん相手にもあんな風に甘えてたりしたんだろうな…だったらいいな。

部下の田村くんに裏切られて『家でも会社でも…』って本音を爆発させるシーンは本当に切なかった。
大人になると立場も世間体も無視することは出来ないから自分の思うようには生きずらいよね、特に男性は…。

ニューかあちゃん智子さんは、ひたすら耐える女性で、菅原家の男性陣の為に尽くして尽くして、ようやく上手くいきかけたのにやっと掴みかけた幸せを手放さなければならなかったのが悲しい。
智子さんを含め、菅原家の父も兄弟も亡くなったお母さんの事は忘れられないけど、それでも智子さんと良い関係を築いていって欲しかった。

兄ちゃんに認められて、嬉しそうだった時や、お父さんにきつく当たられて嗚咽してた時の背中の演技がすごくて、顔が見えてないのに感情が伝わるのがものすごくて、見返りを求めずに家族に接する姿は応援せずにはいられなかったです。


そして、遺影と声だけなのに最大の存在感を放っていた、兄弟の本当のお母さん。
兄弟や友達との思い出話でも、兄ちゃんの歌の中にも、留守電の温かくて優しい声にも想像できるお母さんがとてもリアルで、客席の私達まで生きてる時のお母さんを知っているような気になった。
自分の死期を悟って、母という存在を自分ひとりだけのものにすることを願わず、自分の代わりになってくれるひとが現れたら遠慮なく甘えなさいって諭すお母さん…常に家族を1番に考えているんだから、つくづく母って偉大だよなぁ。


最期の『かあさーん!』からのあの展開は、性別の違いのせいか私には理解できなかったけど、見返りもなにも期待せずに惜しみなく愛情を注いでくれる母親という存在が、男のひとにとっては永遠の理想の異性なのかなぁ…って結論に落ち着いた(あくまでも私論)。


東京ではカーテンコールのみでしたが、大千秋楽ではその後にダブルアンコールがありました!

カーテンコールが終わっても拍手が鳴りやまず、主題歌が終わりに近付いた頃に1度めのアンコール。ギャー!期待してたけど本当にしてくれるとは!!
もうこれが見納めと手がちぎれんばかりに拍手!!

そして、曲が終わっても客席みんな残ってしぶとく拍手を続けていたら…なんともう1度主題歌が流れ始め…。


もう1度、幕が上がりました!!
しかも舞台中央に三浦さんっっ!!!
愛の渦の舞台挨拶以来の三浦さん!!!
あああああ、大阪まで来てよかった!!!!

喝采の拍手のなか、三浦さんがコメントしてくださったのですが、疲労困憊の峯田さんは立っていられずベッドに腰掛けて三浦さんのコメントを聞いておられました。

三浦さんは舞台を観にきたことへの御礼を丁寧に述べて、『自分があんまり喋っちゃうと芝居の余韻が無くなっちゃうから…』なんて奥ゆかしいこと言って(そんなことないのに!もっと聞きたいよ!)峯田さんにマイクを渡されまして。
峯田さんは『信頼関係も身体もボロボロになりながらも支えられてなんとか終われたことが嬉しい』とコメント。
続く池松くんは最初、三浦さんにマイクを差し出されて、いやいや…って遠慮してたけど、いざマイク持ったら『喋っていいんですか?』とか言いながら『この作品が大好きでした。兄ちゃんが大好きです。共演者、スタッフ、三浦さんが大好きです』とコメント。
そして田口さんが『初めての舞台で座長を努めた峯田くんが満身創痍で頑張った。その絶滅危惧種(峯田)さんを目撃できた感動を共有できた』と笑いを交えながら、なのに感極まったコメント、そしてその横で片岡さんが号泣。
三浦さんが片岡さんにマイク渡そうとしても頑なに辞退して(どこまでもニューかあちゃんのように奥ゆかしい女性だ…)、最後に三浦さんが『お母さん、おかげで僕はこんなにおおきくなりました』と締めて幕が降りました(コメントはうろ覚えです)。


1ヶ月間、時間と感情を共有して、菅原家の生活を垣間見せて貰ったあの空間は、全部が大切な宝物です。

この舞台を見て、なんか家族とかいろいろいっぱい考えさせて貰いました。

この舞台を届けてくださった7人の役者さん、スタッフさんたち、そして三浦さん、大変お疲れ様でした。


10月にはWOWOWでの放送も控えてるとのことなので、またあの感動が蘇ると思うと嬉しくて楽しみです。



WOWOW加入してないけど(最後にソレか…!)。

映画『自分の事ばかりで情けなくなるよ』初日舞台挨拶

自分のことばかりで情けなくなるよの初日舞台挨拶、行って参りました★


映画『自分の事ばかりで情けなくなるよ』

日舞台挨拶 渋谷ユーロスペース

2013/10/26 21:00〜

監督・脚本/松居大悟

音楽/クリープハイプ

出演/池松壮亮/黒川芽以/安藤聖/尾上寛之/山田真歩/大東駿介/クリープハイプ

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当日は整理券配布が11時からっていうので9時くらいに到着するように行ったら既に20人ちょっと並んでた。
並んでる人が多過ぎて、異例の30分繰り上げて整理券配布開始。
そしてあまりの客の多さに急遽ユーロスペースのもういっこのスクリーンも使ってのダブル舞台挨拶付き上映。
これはユーロスペース始まって以来?の快挙だそうです。

ユーロスペースは舞台挨拶の登壇者さんたちも一般客と同じ扉から入場するのですが、ケイトの整理番号は40番台前半だったので、狙ってた上手の通路側は取れないかな〜と思ってたんですが、前に入ったひと達が皆さん中央寄りに集中してたので、ビックリするくらいあっさりと上手通路側の最前列が取れました。
すぐ横の至近距離を登壇者さんたちが歩いてたよ…!!

松居監督を先頭に池松くん、黒川芽以さん、大東くん、山田真歩さん、安藤聖さんの順で登場。
安藤さんは登壇予定にはなかったのに急遽来てくれたそうで得した気分ですな!

池松くん、襟足がスッキリしてて超可愛いかったー!!
相変わらず変な服着てたけど、それさえも似合ってたよ(笑)。

大好きなクリープハイプと松居さんの作品のせいか、今まで見たことないくらいリラックスして口数も多くて、終始楽しそうな池松くんでした。

松居監督の発言にも、なにかとフォローする珍しい姿を見せた池松くんでしたが幾度となく自分へコメントを求められると、そのうち言うことが尽きてきたのか『なんか…笑っちゃいますね、…たのしい』とか言い出して会場もつい爆笑。

そして最初の挨拶の時から泣きそうで舞い上がってたという松居監督。

映像の流れかなんかを問われた時に『僕等の物語は結構(だいぶ?)前から始まってて…』みたいな名言も飛び出したりしたんですが、最後の挨拶の途中、感極まって泣きだしちゃって、池松くんが『よく泣いちゃうんです、許してください』って苦笑しながらフォローしてあげたり、泣いてる松居監督を登壇者の皆さんが『も〜っ…』って笑いながら温かくイジってたのがホントに微笑ましかった。

大東くんも超カッコよかったし(世間のかっこいいイメージはまやかしで、このMVでの姿が真実、という発言に笑った。)女性陣も皆さん綺麗で可愛くて素敵で、登壇者の皆さんからこの作品に対する愛情がいっぱい伝わってきて、ほんとに良い舞台挨拶でした。

映画はもうすっごい胸が痛くて切なかった。
まだ公開始まったばかりだから内容は控えますが。
やっぱ、MVではよくわかんなかった点に理由が明かされる分、ストーリーに入り込み易い。
それでも謎だったところとか、映画ではサラっと流されてた過去の繋がりとか時間枠に関しては写真やインタビュー満載のパンフがこれでもかーってくらい補完してくれてるので、パンフは絶対に買うべきだと思われます(回し者じゃないわよ!)。

この映画見た後はいつも以上にクリープハイプの曲を激リピしたくなるなぁ。
そしてまた映画を見たくなる魔の永久運動(笑)。

パンフ読み込んだ後に、もう1回見に行きたいな。

舞台『ぬるい毒』

舞台終わったのでネタバレ含む独り言です。
いちファンの独りよがりな感想ですので不快に思われる方も多いかも。
先に謝ります、ごめんなさい。



舞台『ぬるい毒』。
紀伊國屋ホール
2013/09/13〜2013/09/26 原作/本谷有希子
脚本・演出/吉田大八
出演/夏菜 池松壮亮

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ぶっちゃけ、9回この舞台を観に通ったんですが、正直言うと初見で(>_<)ってなった。
いけまつさんファンの端くれなので、彼の演技見たさにチケット購入した訳ですが、今までのいけまつさんの役はどんなにダメ男でも何かしら萌えポイントがあったのに、今回の向伊という役は、胡散臭いし周りを見下してるヤな感じだし、悪意と虚偽を正当化するかのような言葉を平気で口にする。
ある意味、ここまで好きになれない役を造り上げてる彼が逆にスゴイと思ったほど。
そして更にモヤモヤを増長させるのが、彼の役に限らず登場人物が皆、難癖ありそうなとこ。
誰にも感情移入出来ず、気持ち悪さを抱えたまま話を見守ってくわけです。

3回目くらいまでは何の感想もなく芝居に飲み込まれてただけで、ドロドロモヤモヤとした嫌な後味を感じてただけだったんだけど、3回目の後にようやく原作を読んだらものっすごい衝撃を受けた。

舞台の熊田は向伊の悪に気付きつつも溺れていって、彼に依存してた印象に見えたけど、原作読んでみたら、熊田は向伊の嘘に心酔していて、向伊が生み出す芸術的な嘘を聞きたいが為に自分を演出していたみたいな描写があったので、その辺をもっとバーンと押し出して欲しかった。
もしかしたら私が気付いてないだけで、そーゆーシグナルはちゃんと出されていたのかもしれないけど、ハッキリと熊田が向伊に嘘を望んでたってことが分かるのは終盤のトコだけなんだもんなぁ…。
せっかく熊田の心情をスクリーンに映すっていう分かり易い手法を取っていたのだから、も少し熊田のそういった部分を掘り下げて欲しかった(でも文字に頼りすぎるのもね…うーむ、難しい)。

ここで熊田のモノローグが出たついでに、もひとつモヤモヤするとこがあったのだけど、結構文句言ってる癖に実は熊田のモノローグってすごい気に入ってるんです。
特に好きなのが、向伊に宛てた、本当の自分の姿を明かす送れなかったメール(?)の文章と、最後の方の『わかってる』から始まる長い文章。
なんだけど、何回か見てるうちに『アレ?』って思うようになったんですが、向伊が善人じゃないってわかっていながらも惹かれていく熊田が、向伊と居ることによって自分が『鬼』になる、と分析してる文章があるんですが、その時の熊田は『鬼としてでも生きる瞬間があった方が、何もないまま死んでいくよりもずっと良い』みたいな事を言ってる訳です。言ってたよね?(ハイ、ここで反芻タイム)
…そう考えると、向伊が熊田を堕とそうとしてるのではなく、逆に熊田が向伊を利用してる、って事になる。
それなのに、最後には『自分を笑わないで。悲しませないで。』って言ってる。
あなた、鬼になりたくて向伊から離れられなかったんじゃないの?溜まりに溜まった、培養した怒りの細菌を爆発させたかったんじゃないの??って思っちゃう訳です。
本当に、修羅に生きる瞬間を望んでいたのでないならば、熊田が向伊の目的(熊田家の財産)に気付いた時に向伊から離れれば良かったのに。
あぁ、でもわかっててもどうしようもなく惹かれて気付いた時にはドロ沼にはまってるってのが、向伊の甘美な毒なのか。
そんで本当に暴動が起きてしまった後、熊田に虚しさしか残らなかったのか…。


向伊の話が出たついでになんですが、この人に目を付けられたらホント手に負えない、厄介な人だなと思う。

女の子とかに対して、ムダに顔や身体を近付けて意識させるとか、すごくこまめに相槌を打つとか、呑んでる時に身体全体を相手だけに向けて座るとか、『貴女は僕と同じだよ』って親近感を湧かせるとか。女の子に、気があると思わせるポイントを確実に抑えてる。
そして向伊のスゴイ所は、相手のタイプの人間全体を見下す発言をしておきながら『でも、あなたはそうじゃないよね。あなたはコッチ側の特別な人間でしょ?』って持ち上げて、その気にさせる。その為には自分を過小評価することも全然厭わない。なのに本気でそうとは思ってない態度を隠しもしない。向伊は常に自信に溢れてる。それはもう女も男もカンケー無しに絶大な威力を発揮する向伊マジック。
おそらく、向伊の周りの取り巻き達は皆そんな感じで向伊に心酔してるんだと思う。

そんな向伊が唯一、素顔を垣間見せたように見えたのが(あ、ラスト以外でね)原をこっぴどく傷付けた後の熊田とのシーン。
多分、熊田が自分の思う通りに行動して、完全に自分に堕ちたことを確信して大満足だった向伊。
熊田を利用する目的は変わらぬ大前提だけど、それでもあの時、向伊は熊田をちゃんと可愛いって思ってたんじゃないかしら。
『熊田さんには本当のコト言っておきたかった』『今は熊田さんだけだよ』って、あの発言もきっと本心。
眼鏡を外して、素の顔を見せていたのも、それの表れだと思うのよ。
まぁでも、可愛いと思ってもそれは自分に忠実なペットに対するようなものかもしれないし、例え違ったとしても、そんなちっぽけな本音さえも最終計画の為の駒でしかないところがさすが向伊って感じなんだけど。


熊田が上京した時の、フラストレーションが最高潮に達してキレていくまでのシーンは圧巻でした。
なんかスゴイ。色々な意味でスゴイ。

既出の奥出野村含めた向伊グルーピーの飲み会は…あー…あるある、って感じでやけにリアルでした。
野村の胸に『侍』って書いてあったのが謎(笑)。奥出のほっぺとリップがやたら赤くておてもやんにしか見えなかったり、素顔は絶対に可愛いと思われる女の子たちが残念すぎるメイクだったりと視覚的にものすごい。
あの凄メイクは、毒に侵されてる若者たちが熊田にはああ見えてるってことなのかな。
ここらへんの結末は、原作よりバイオレンスな感じなのだけど、舞台観ながらずっと『向伊にバチが当たってしまえ…!』と思ってたので少し気が晴れた。
でもその後、なんかよくわからない脱力感とゆーか、虚無感に襲われるんだけど。
なんだろ、熊田が19から22歳までの3年もの時間を費やして、ようやく鬼になれた瞬間を迎えたのに、虚しさしか残らなかったのが切ない、みたいな。
そんなもの悲しい気分にさせられる。


そしてそれから1年以上過ぎて、立ち直れた熊田にホッとひと安心。

辛すぎる過去はちゃんと糧となって熊田を成長させたのだな。

地元で偶然に出会った奥出は、あの頃の軽薄な感じとは打って変わって、まっとうな青年になりつつある。
熊田の大立ち回りに衝撃を受けて、そして向伊からも遠退いた事によって彼も解毒されたのね、きっと。


その後の向伊のことは、何もわからないまま。
もしかしたら彼も変わっているのかもしれないし、変わらないまま今もその悪どい魅力で周りの人を魅了し続けてその中心で君臨しているのかもしれない。
わからないけど、それでいいのかなと思う。

トークショーの時、いけまつさんが向伊のことを『そんなに悪い奴だと僕は思わない。男は皆、少なからず向伊みたいな所がある』みたいな事を言ってましたが、自分の周りには向伊のような人間は居なかったので、やはりその禍禍しさにはヒリヒリとした嫌悪感を感じます。


24歳を迎えた熊田の目の前が拓けているかどうかは過去じゃなくて、きっと未来で決まる。

そう思いたいエンディングでした。


まーそんな感じで長々と呟いてはみたものの、毎回1番ハラハラしながら観てたのが、向伊が暴れる熊田を枕越しにギューするシーン。
暴れる熊田の手が、いつ向伊のトランクスに引っかかってポロリしてしまうんじゃないかと(笑)そんな心配ばかりしてました。

あと、以前『露出狂』でも遺憾無くその魅力を発揮していた原役の板橋さん。
あなたはこの舞台唯一の癒しでした…!!

なんだかんだ言いながらも、非常に濃密な時間を体験させて貰った2週間。

この作品で、胸をえぐられるような傷を付けられて、今まで自分が気付こうともせず知らなかった世界への視野が広がった気がする。


ものすごい体験を与えてくださった原作者様、監督様、キャストの皆様、スタッフの皆様。
とんでもない衝撃をありがとうございました。


ここまで長々とお付き合いくださった方もありがとです。